バイオ燃料をもっと知りたい女性「どうやらミドリムシなんかもバイオ燃料の材料として使えるらしいですね。藻類バイオマスについて詳しく教えてください」
そんな要望にお答えします。
ミドリムシは近年栄養満点の健康食品として人気ですね。
また、ミドリムシを元につくるバイオ燃料にも注目が集まっています。
たとえば、大量培養に成功したことで知られる株式会社ユーグレナは、2020年中のバイオジェット燃料を用いた有償フライトの実現を目指していますよ。
この記事では、そんなバイオ燃料のためのミドリムシの活用について、紹介していきます。
- ミドリムシとは
- 藻類バイオマスが秘める可能性
- なぜ藻類バイオマスは難しいのか
それでは見ていきましょう。
ミドリムシとは
ミドリムシ(ユーグレナ)とは、水に住む緑色の藻類のひとつです。
よく池や湖の水面に浮いている緑色の膜の正体が、ミドリムシになります。
ミドリムシは単細胞生物なので、2つに分裂する形で増えていきます。
そして、成長をするために光合成が行われるのです。
光合成の化学式を見てみましょう。
二酸化炭素と水から、糖分と酸素を作り出していますね。
こうした光合成をうまく促すことで、ミドリムシは培養していくことができるのです。
株式会社ユーグレナの創業者「出雲充」さん自身が経験したミドリムシの大量培養への道に興味がある方は、ぜひ『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』を読んでみてください。
個人的に読んでみて、とてもミドリムシの可能性に魅了された本でした。
次のセクションでは、藻類バイオマスがどうして注目される燃料なのかを解説していきます。
ミドリムシという一つの藻類が知ったいま、きっとこれから解説するメリットがわかりやすくなっているはずです。
藻類バイオマスが秘める可能性
ミドリムシをふくむ藻類バイオマスは、多くの可能性を秘めています。
ここでは、以下のふたつに分けて解説していきます。
- バイオマスに共通するメリット
- 作物に比べて優れている点
順番にみていきましょう。
バイオマスに共通するメリット
藻類バイオマスを含め、バイオマスを利用する燃料には次のようなメリットがあります。
- 二酸化炭素(CO2)を固定できる
- 排出するCO2が化石燃料にくらべて少ない
- 食用や化粧品など、たくさんの利用価値が存在する
二酸化炭を固定できる
バイオマスには、成長するなかで光合成が行われる結果、二酸化炭素(CO2)を蓄えておくことができます。
つまり、そのままにしておけば、一時的に保管しておくことができるのです。
やがて排出されることになりますが、こうしてCO2を固定しておけるのは、地球温暖化の気休めにはなりますね。
排出するCO2が少ない
バイオマスからは燃やしたときに排出されるCO2が化石燃料にくらべて少ないというメリットがあります。
もちろん排出はしているので、完全にゼロではありません。
ですが、成長過程での光合成を通して、CO2が吸収されているので、プラマイゼロになっています。
たくさんの利用価値が存在する
ミドリムシをふくめ、多くの藻類は栄養が満点で健康食品やサプリメントに適しています。
また、ビタミンやミネラルなど、藻類からのエキスは化粧品にも有効です。
藻類や植物によって異なりますが、ほかにも使い道があるのは大きな利点ですね。
このように、バイオ燃料には、ほかのエネルギー資源にない魅力が詰まっていますよ。
もし藻類バイオマスに限らず、一般的なバイオ燃料について興味があるかたは、次の記事を読んでみてください。
藻類バイオマスが優れている点
ミドリムシなどの藻類バイオマスは、木材やサトウキビなどのバイオマスにくらべて優れている点が4つ存在します。
- 爆速で成長していく
- 廃水を綺麗にできる
- 農業に適さない土地でも培養できる
- バイオエンジニアリングに適している
順に解説します。
爆速で成長していく
藻類の成長はめまぐるしく、一日で量が二倍以上に成長します。
多いものは6時間に一回、つまり一日に4倍の量に増えるのです。
藻類は効率的にエネルギーを蓄えられるので、量と質ともに優れたバイオマスを培養することができますよ。
廃水を綺麗にできる
多くの藻類は、効率よく水から養分を吸収することができます。
なので、廃水にふくまれる窒素化合物やリン化合物などの除去に適しているのです。
ですので、水の処理をかねて育てられるのは、一石二鳥といえますね。
農業に適さない土地でも培養できる
藻類の培養は基本的に場所を選びません。
農業に適さないような土地でも大丈夫ですし、藻類によっては海水でも育てることができます。
なので、技術ができてしまえば、規模を広げるのは農作物に比べて簡単ですよ。
バイオエンジニアリングに適している
多くの藻類は、遺伝子情報を保管する株(strain)の成長が急速です。
なので、遺伝子組み換えや品種改良などのバイオエンジニアリングに適しています。
より効率的に成長して、より効率的に燃料になるように開発する上では、欠かせない性質を備えているのです。
こうして見てみると、バイオ燃料のなかでも、藻類バイオマスに注目があつまる理由がみえてきますね。
ただ、すべてが順風満帆ではないわけを、次のセクションで明らかにしていきます。
なぜ藻類バイオマスは難しいのか
ここでは藻類バイオマスの発展・普及を妨げている、乗り越えるべき挑戦について解説します。
- 培養効率が低い
- 抽出コストの高さ
- 培養に必要な大量の水
- 培養に必要な栄養問題
- 天敵の微生物から守る必要性
順番に見ていきましょう。
培養効率の低さ
現状の藻類バイオマスは、培養できる効率が悪く、コストがかかりすぎています。
大量培養の方法としては、主に2種類ありますが、それぞれコストがかかる面が異なっています。
- フォトバイオリアクター(閉鎖系)
- オープンポンド(開放系)
フォロバイオリアクター(PBR)は、チューブやフィルムを用いて、立体的に藻類を培養していきます。
PBR は閉鎖的であるため、フィルム内のガス交換が必要であったり、冷却を補ってあげる必要があるのです。
なので、一見、環境をコントロールしやすい PBR は魅力的ですが、コストがかかりすぎてしまいます。
オープンポンドは、池やプールなどの開放的な環境で藻類を育てるシステムです。
ここでは、害虫による汚染と培養効率の悪いさが問題になっています。
「効率は上げつつコストを下げる」、そんな安価で藻類バイオマスを培養するための研究は、まだまだ時間がかかりそうです。
抽出コストの高さ
藻類バイオマスをバイオ燃料にするには、バイオ原油を抽出する必要性があります。
抽出方法は以下の三つです。
- オイルプレス
- ヘキサン抽出
- 超臨界二酸化炭素抽出
どれも抽出には成功していますが、かかるコストが非常に高い問題を抱えています。
さらに、バイオ原油を精製していく必要があることを考えると、この高いコストをどうにか解決しなければなりませんね。
培養に必要な大量の水
藻類バイオマスの培養には、多くの水が必要です。
育つために必要なのはもちろん、オープンポンドの場合は、蒸発していくことも念頭におく必要があります。
藻類によっては、飲み水に使えないような水でも利用可能ですが、必要には変わりません。
水不足が世界中に問題視されるなか、藻類の培養が増えていくとなると、水資源との向き合い方が問わることになるでしょう。
培養に必要な栄養問題
藻類バイオマスの培養は、ほかの植物のように、多くの栄養素が不可欠です。
たとえば、窒素やリン、鉄分や硫黄、カリウムなど、さまざまな栄養素を与える必要があります。
藻類は栄養素を水から効率よく吸収しますが、もとは肥料を通して与えなければいけないのです。
肥料にかかるコストや肥料を生産する上での環境問題は、依然として藻類バイオマスに残ることになりますよ。
天敵の微生物から守る必要性
藻類バイオマスのプールでは、微生物にとって格好の環境です。
栄養素がたっぷりの培養液もそうですし、ミドリムシという餌も存在します。
なので、天敵の微生物からうまく守ってあげる必要があります。
恐ろしいのが、たった一匹でも微生物が入ってしまうと、餌だらけのプールで大量繁殖して、全てを汚染してしまうのです。
すでに紹介したフォロバイオリアクター(PBR:閉鎖的)なら、微生物が入り込みにくいのですが、やはりコストが課題になりますね。
なので、どうにか上手いこと、コストをかけずに藻類バイオマスのみを培養する研究が必須になってきます。
まとめ:藻類バイオマスのこれからは?
このように、この記事では、ミドリムシについて軽く触れたあと、藻類バイオマスの魅力と課題を紹介しました。
技術があっても、ほかのエネルギーを代替するには、効率性とコストが大きな課題になっていますね。
水素エネルギーやほかの再エネも日々研究・発展されているので、これからどうなるのかはわかりません。
ただ、ひとつの可能性として、藻類バイオマスを覚えておいてくださいね。
この記事が役に立ったのなら、嬉しいです。
ちなみに、この記事の藻類バイオマスの魅力やチャレンジについては、以下の文献を参考にしました。
- ハノン・マイケルらによる『藻類バイオ燃料の挑戦と可能性( Biofuels from algae: challenges and potential)』
もっと詳しい情報がほしいという方は、ぜひ読んでみてください。
また、もし地球温暖化問題について興味があるのなら、次の記事を読んでみるといいですよ。
基礎からご紹介しているので、きっと毎日のニュースも理解しやすくなります。
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